戸嶋靖昌は故郷の坊澤へ帰ると、少し足を延ばし森吉山へ登った。縄文人も恵を授かりに足を踏み入れたであろう、狩りと採集の営みがいまだ色濃く残る山。
はたして戸嶋はこの山で何を見ていたのか。
ここには、山の神、伝承の鬼、そして人と鬼の狭間で闘う又鬼が生きている。
戸嶋は動物を愛した。自然と森、雪深い故郷を愛した。それは終生、どの地にあろうとも変わらなかった。ヨーロッパの縄文とも言えるケルト文化が横たわる西の辺境の地、スペインでは石のある風景を、赤く傾いた土地を見ていた。
故郷の家を思い起こしながら、グラナダの廃屋を雪景色のように描いた。
子供のころから見ていた色、空気、風、山の精は、
いつでも戸嶋を包んでいた――。