草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • ギョーム・アポリネール「ミラボー橋」より

    日々は流れゆき、私は残る。

    《 Les jours s'en vont je demeure. 》

  アポリネールの詩には、珠玉のような希望の滴りが散りばめられている。それはこの詩人が、言葉に表わすことの出来ぬほどの不幸を味わって来たからに他ならない。不幸の中から美しいものが生まれて来る。屈辱の中から真の希望が現われて来るのだ。日々の時間と、真に対決した者にのみ、未来は微笑かけて来る。『ユートピアの精神』の著者エルンスト・ブロッホは、「私はある。我々はある。それで充分だ。ともかく始めなければならない」と言った。ブロッホは、希望の哲学的基礎を述べたのだ。
  それを詩と成した者が、アポリネールだろう。冒頭の言葉には、無限の悲哀と永遠の希望が謳われている。我々は生きているのだ。我々はいまここにいる。我々は進まなければならない。そう詩人は我々に語りかけている。冒頭の一節に先立って「夜よ来い、時よ鳴れ」という一節が謳われている。真の希望が、戦いの中から生まれることを示しているのだ。自己の運命に向かって、体当たりを喰らわす人間にして、初めて冒頭の一節が意味を成すのだ。
  自己の運命に与えられた不幸を、抱き締めた人間にだけこの一節が語りかけて来る。いま自分が在ることの幸福を、自分の運命だけが知っているのだ。その運命が、いま残っている。それがすべてだ。それ以外のもので、何を必要とするのか。運命に立ち向かう者にとっては、自分の存在そのものが、宇宙的使命をもつひとつの運命なのである。自己の運命だけが、未来を切り拓くことが出来る。運命の中に、真の希望が内在しているのだ。それをこの詩人は、美しく謳い上げた。

2022年6月11日

ギョーム・アポリネール(1880-1918) フランスの詩人。生涯を通じて前衛的な芸術活動に参加。ダダやシュルレアリスムなどの、新しい芸術の創造に大きな影響を与えた。ピカソとともにキュビズム理論の確立に尽力したことでも有名。代表作に『アルコール』、『カリグラム』等がある。

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