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第3回「戸嶋靖昌 ―青の時代―」展

展覧会パネル文章

「青には、悔恨の相貌がある」。そう戸嶋靖昌は言っていた。存在の根底を悔恨することによって、戸嶋は何ものかを掴んで行ったに違いない。文明によって、いま我々の生命は汚れつつある。生命が生まれた原初の日々への憧れ。それが悔恨を生み出す。若き日の戸嶋は、「青」の使用によって、それを極めようとしていたのではないか。青は信仰の色である。それは、悔恨が引き出す悲しみに通じているのだ。あのピカソも、「青の時代」を戦い抜くことによって、己の芸術を確立した。そして、ルオーである。ルオーも青と戦い抜いた。戸嶋の青は、それらと同じ戦いなのだ。信仰を内在する人間がもたらす青の解釈。それが戸嶋の青である。若き戸嶋にとって、青は熱情であり、悲しみであった。青こそが、存在への信仰であった。つまり、涙から生まれた、真の「希望」であったのだ。

執行草舟
〈展覧会名〉
第3回「戸嶋靖昌 ―青の時代―」展
〈会期〉
2012年8月24日~11月中旬
〈概要〉
戸嶋靖昌がその油絵に於いて独特の表現法に至るまでには、武蔵野美術学校時代の弛まぬ人体デッサンの修練と彫刻制作が土台としてあります。また、水彩、ペン画、木炭といった素材の実験的な試みを模索していたことも、残されたスケッチブックから伺うことができます。資料の大半は人体デッサンであり、古典美の主題であるはずの裸婦像は太く大きく、ときに直覚的でさえあります。この骨格のしっかりとした描写は戸嶋の目指した「土層」の中に埋まった化石の様に時間を停止させ、「いつの時にも同じ様にある一枚の板(戸嶋記)」のような人体、時を経てもなお変わらず、在り続ける普遍的な人間の姿を写し取った記録です。また、スペインへ渡る前に描き始めた森シリーズとの関連が伺える、木立や森の遠景などのスケッチも多く残されており、今回の展示では戸嶋が学生および助手を務めた1950~1960年代の彫刻・スケッチ・写真資料を中心に、若き日の制作をご紹介いたします。

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