第6回「戸嶋靖昌 ―記憶の旅―」展
記憶の涯て
展覧会パネル文章
戸嶋靖昌は、我々とは違う「記憶」の中に生きていた。その記憶は、我々が原故郷を旅立つときにもった「何ものか」である。いのちが、それを覚えているのだ。戸嶋が、プルーストを愛した謂われは、ここに存する。その『失われた時を求めて』が、戸嶋の芸術を支えていることは間違いない。いのちがもつ「持続する時間」の息吹を、戸嶋ほど画布に叩きつけた画家は少ないだろう。持続の道を、人間の骨と血の慟哭が通る。持続の苦痛の中に、宇宙は哭き、大地は呻きを上げる。そして生命は、持続する悔恨として、我々のいのちを笞打つのだ。生命の持続は、我々に悲哀の原点を与え、それが物質に熱情を注ぎ込んでいる。いのちは、戸嶋の生命の奥に悶え苦しむ。戸嶋の芸術とは、その「現象」に他ならない。つまり、いのちがもつ悲哀の「現実的放射」である。
執行草舟
- 〈展覧会 案内葉書〉写真:戸嶋靖昌40代 セビージャにて 右図:オルベーラの風(スペイン)
- 〈展覧会イメージ作品〉「ララーチェにて(モロッコ)」 戸嶋靖昌 画
- 〈展覧会名〉
- 第6回「戸嶋靖昌 ―記憶の旅―」展
- 〈会期〉
- 2013年6月17日~9月7日
- 〈概要〉
- 戸嶋靖昌はスペインで26年間独自の人物像と風景画を描き続けました。アスナルカサル村やグラナダなどで、戸嶋は人々の暮らしに溶け込みながら制作し、時に心の赴くままに風景を求め旅をしました。今回の展示では、戸嶋が撮影した風景や人々の写真、旅の記録、スペインのアトリエの様子など、残された記憶を辿る旅をテーマに、油絵の作品と合わせて展示します。