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第10回「戸嶋靖昌 ―風の葬祭―」展

展覧会パネル文章

風の葬祭

 戸嶋は、埋葬の芸術を築き上げた。生命の悲哀を、見つめ続けた結果であろう。生命の現前は、それを愛することによって初めて可能になる。しかし、生命の存在を真に愛することは悲しみでしかないのだ。愛は、悲しみである。戸嶋は、死に行く生(セイ)に祈りを捧げていたに違いない。それを断行することが、芸術家の使命だと思っていた。それゆえに、戸嶋はすべての生命を埋葬するのだ。自己を滅却して生を埋葬する。風のように、生命を慈しみながら埋葬する。風の葬祭が、画布を埋め尽くして行く。そして、その生命の未来を描く。その生命の生きた痕跡を描く。それは、さながら生命の悲哀を葬るかのように見える。ここにこそ、戸嶋絵画の葬送の調べがあるのだ。

無から有へ

 「虎ノ門は、俺にとって無から有を生み出したということになるだろう」。そう戸嶋靖昌は、死の淵で語った。私は、その意味を考え続けている。戸嶋の生命は、垂直の重力である。だからだろう。戸嶋は、その「日常底(テイ)」に潜む暗黒の魔性と直面して生きていた。魔性は、戸嶋のはらわたを抉(エグ)り続けた。そして、戸嶋自身の生命に、真空の混沌(カオス)を創り上げていたのだ。混沌が、戸嶋の生存を支配した。その苦悩と呻吟が、戸嶋芸術に他ならない。その涙の涯てに、戸嶋は「神」を見出したに違いない。遠い「憧れ」が近づいて来たのだろう。崩れ行く肉体が、戸嶋に真実の力強い永遠を摑み取らせた。ついに、無限と有限を司る、逆説の弁証法が立ち上がったのだ。
執行草舟
  • 〈展覧会 案内葉書〉右:戸嶋靖昌「夜の草舟」制作風景 左:戸嶋靖昌「風の草舟」制作風景
  • 〈展覧会イメージ作品〉「魂のフェルマータ ―二つのかりん―」 戸嶋靖昌 画
〈展覧会名〉
第10回「戸嶋靖昌 ―風の葬祭―」展
〈会期〉
2014年6月23日~2015年1月24日
〈概要〉
この度「風の葬祭」という主題で、戸嶋靖昌の晩年の制作を中心に作品を展示いたします。戸嶋靖昌は亡くなる三年半程前に執行草舟(現・戸嶋靖昌記念館館長)と出会い、虎ノ門の旧バイオテック社屋内の専用アトリエで、精力的に草舟の肖像を描き、長年制作から離れていた彫刻も彫りました。戸嶋は自身の制作人生における「虎ノ門時代」を築きたいとの思いで、戸嶋靖昌の集大成としての作品を描き切りました。風のように駆けぬけた戸嶋靖昌の痕跡を、制作過程の写真や記録とともにご紹介いたします。

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