執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。
航海をすることが必要なのだ、
生きることは必要ではない。
この気宇壮大を私は愛する。理論はない。私は、この思想が死ぬほどに好きなのである。私の武士道は、この思想を求めて呻吟を続けたのだ。自分が愛するものに、自分の命を捧げる。それが人間の本来と私は思っている。我々の生命は、何ものかを為すことを渇望しているのだ。ザイン(存在)を与えられた我が命は、ゾルレン(当為)を求めて彷徨いつつ生きた。だから、この言葉に出会ったのだろう。「価値」が重要なのだ、生きる必要はない。私は、出発する決意を固めた。
このような思想が、この世にあった。それ自体が、私に抑え難い喜びをもたらしたのだ。この思想によって、あのポルトガルは世界へ雄飛した。ポルトガル人の勇気が、大航海時代という人類的大事業を推進したのである。その根幹が、この思想だった。私の魂は、当時のリスボンに飛翔していたのだ。歴史を創り上げて来た原動力は、人類に与えられた勇気そのものに他ならない。同じ人間に生まれたならば、その勇気を引き継ぎたい。私はそう願った。願って祈ったのである。
祈りは、エンリケに届いたのだと思う。私は、この言葉と全く同じ思想に生きる自己を見出した。この思想に、これ以上ない幸福を感ずることが出来た。私は、自己に与えられた運命だけを生きる覚悟を深めることが出来た。生きることは必要ではないという思想が、決定的だった。私は自己の運命の中に死ぬ決意を固めた。その勇気を、この歴史的な思想から与えられたのだ。私は、本当に「楽」になった。
2019年6月17日
掲載箇所(執行草舟著作):『生くる』p.387、『根源へ』p.44, 244, 265、『「憧れ」の思想』p.29、129、『おゝ ポポイ!』p.488、『生命の理念 Ⅱ』p.113