草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • ペトラルカ『カンツォニエーレ』(俗語詩集・ソネット6)より

    荒れ狂う我が憧れは、道から外れ()の人を追っていく。

    《 Si traviato è’l folle mi’desio a seguitar costei che 'n fuga è volta....... 》

  私はこの『詩歌集』に、ヨーロッパの詩の原点を見出していた。吟遊詩人によって歌われた愛は、ペトラルカを経て、あの偉大なロマン主義を生み出していったように思う。ペトラルカの詩は、後にシェイクスピアによって鍛えられ、その「忍ぶ恋」をヨーロッパ精神の根源に据えたのである。ペトラルカの持つ騎士道が、後のヨーロッパ精神を導き出した。「隠された愛」が、精神の偉大を創り上げていったのだ。これはルネッサンスの「輝き」に違いない。
  私は高校生のときに、この文学を英訳書によって読んだ。その動機は、ダンテの『神曲』の理解をより深めたい一心によってだった。しかし、これを読み進むにつれ、ペトラルカの秘めた「忍ぶ恋」のロマンティシズムにのめり込んでいったのだ。私はそこに、自分のもつ「忍ぶ恋」と同根の思想を見出していた。『葉隠』の武士道が、ヨーロッパ・ルネッサンスの精神と重なり合ったのである。私は自己の武士道に、より深い誇りを感じた。忍ぶ恋こそが、自己固有の道を創るのだ。
  忍ぶ恋の憧れと慟哭だけが、魂の道を切り拓いていく。そのことに東西の違いはないのだ。人類が誕生して以来、人間の精神を深めて来たものの根源に忍ぶ恋がある。この秘められた愛だけが、人間の宇宙的使命を自己の魂に引き寄せることが出来るのだ。騎士道も武士道も、その秘められた愛によって築き上げられて来た。絶対に到達できない遠い憧れに向かって、我々の祖先は生きようとした。人間に生まれた喜びを、自己の魂の燃焼に感じたのだ。我々は、その血を受け継ぐ者である。

2021年8月28日

ペトラルカ(1304-1374) イタリアの詩人。自身の恋愛をきっかけに恋愛詩を書き始める。自身の執筆のためイタリア各地を転々とした後、桂冠詩人の称号を受ける。ルネサンス期を代表する抒情詩人。代表作に『カンツォニエーレ』、『アフリカ』等がある。

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