草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • アンリ・ベルクソン『創造的進化』より

    人間の意識は、脳から湧き出てくるのではない。

    《 La conscience ne jaillit pas du cerveau. 》

  脳は内臓である。それが、いま分からなくなってしまった。脳が人間の中枢であるかのように思ってしまったのだ。内臓は物質に過ぎない。多くの内臓がそうであるように、脳も蛋白質によって作られた器官の一つと言えよう。種々の生命作用を司るように、自然によって設計された構築物の一つが脳なのだ。我々は、人間の思考が脳から生まれると錯覚している。その錯覚によって、我々は途轍もない物質主義の誤りに陥ってしまった。それが現代と言えるのではないか。
  脳の中を走るものがいる。脳を貫通していくものがある。脳という器官を「利用」している電磁波が存在する。それらは外部から直接来るものも多くある。そして、我々の全身の「存在」そのものを通して、伝わって来るものもまた多くあるのだ。それらの作用が、脳の「機構」の中で取捨選択されまた濾過されているのだろう。我々の人間としての心、つまり意識は我々の存在そのものの中から生まれて来るのだ。半分は我々の全身の器官から来る。そして残りの半分は、天空と地底から直接やって来るのだ。
  近代の思想で最も大きな誤りは、「人間存在」の捉え方を間違えたことにある。人間の肉体が地球上に自立し、その意識が宇宙的に独立したものだと思い込んでしまったのだ。そこから、近代の傲慢が生まれて来た。私はベルグソンの生命哲学に触れ、そのことを深く理解することが出来た。長く喉の奥に突き刺さっていた異物が、取れたような思いと言える。私の生命哲学は、このベルグソンの理論から出発している。そして後に、テイヤール・ド・シャルダンに出会うことによって、それは確立した。絶対負の思想が、蠢き出したのである。

2021年9月25日

掲載箇所(執行草舟著作):『「憧れ」の思想』p.292
アンリ・ベルクソン(1859-1941) フランスの哲学者。分析的な知性を批判し、生命の流動性や内的認識、直観を重視した独自の哲学を提唱。近代的な自然科学的、機械的思考法の克服を主張した。著作に『物質と記憶』『創造的進化』等がある。

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