草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • 『碧巌録』第十九則より

    一斬(いちざん)して一切(いっさい)(ざん)する。

    《 一斬一切斬 》

  一つのものをれば、すべてのものを斬ったことになる。そう禅匠倶胝が言ったと『碧巌録』は伝えている。この言葉に出会ったとき、私は十六歳になったばかりだった。丁度、そのとき真剣の素振りを一日に千回行なっていた。だからこの言葉は、私の魂に直接に響いたのだ。魂に震撼が走ったと言ってもいいだろう。私の武士道を支える思想に育つことを直観した。それ以来、半世紀を越えて、この言葉が持つ意味を私は考え続けている。そしてこの思想と共に歩めることを、私は誇りに思っているのだ。
  私はこの思想によって、「運命への愛」を知ったように思う。運命への愛は、勇気だけがそれを引き寄せることが出来る。その勇気とは、人生の出来事に一斬を喰らわす決意から生まれる。そしてその一斬の勇気は、そこに宇宙のすべてが包含されていることを信じなければ断行できないのだ。だから一斬が、自己の存在理由のすべてに渡ることが大切である。それが、自己の運命を愛し信じることに繋がっていくのだ。私は自分の一斬が、すべてを斬することに繋がることを実感して来た。
  それが運命への愛を育んでくれたに違いない。人生において、何が自分の一斬になるのか。それを考え続けて来たように思う。自己の最も嫌うものを、断じて行なうことが一切斬を生み出すことを知ることにもなった。そして、未完の人生を受け入れる覚悟が、自己の一斬になることに気づくときがあったのだ。自己に犬死の人生を受け入れたとき、自分の前に立ちはだかる一切のものが斬り捨てられていく。何を斬れば、一切が斬られるか。運命を愛すれば、それが必ず見えて来る。

2021年10月23日

『碧巌録』 臨済宗の公案集。中国、宋の時代に雪竇重顕が『伝燈録』 1700則の公案の中から100則を選出。それに対して圜悟克勤が垂示、著語、評唱を加えて成立。臨済宗の中では最も重視されている語録として有名。

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