草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • W・H・オーデン「見るまえに跳べ」より

    しかし君は跳ばなければならない。

    《 But you will have to leap. 》

  跳ぶとは、非日常性を表わしている。非日常が、人生なのだ。日常は、非日常のための準備でしかない。日常を普通の人生としたとき、我々の人間燃焼は終わる。我々は自己の人生に、非日常を求めることによって立ち上がることが出来るのだ。非日常のために生きれば、我々の人生は詩のロマンティシズムに包まれるだろう。自己の人生を、一篇の詩となさなければならない。それが人間に生まれた使命である。人生とは、詩を実現するためだけにあるのだ。
  W・H・オーデンは、この詩においてそれだけを言っている。安定と幸福の中に、自己の生命を殺してはならないと叫んでいるのだ。詩は切々と、生命の燃焼を謳い上げていく。それが日常となることを願って謳っている。非日常を日常と化するには、勇気だけが必要なのだ。勇気さえあれば、誰の人生でも詩となることが出来る。自己の人生が詩となれば、それだけでいい。それで、人間に与えられた宇宙的使命を果たしていることになる。自分に与えられた人生に、生の飛躍をもたらすのだ。
  人間の生命とは、飛躍することにだけ価値があるのだ。オーデンの詩は、その各段落ごとにこの冒頭の言葉を繰り返している。そのオーデンの願いが見えなければならない。人生とは、その飛躍によって自己の生命的価値を放射するためにある。この詩に出会ったとき、私は詩の魂を摑むことが出来た。それは自分が、自己の幸福だけを望んではいなかったからだ。成功と幸福を望むとき、人間は日常に埋没し、限りなく勇気を失う。我々は、そこから勇気を奮って跳ばなければならない。

2021年10月16日

掲載箇所(執行草舟著作):『友よ』p.54、『根源へ』p.176、『「憧れ」の思想』p.26
W・H・オーデン(1907-1973) イギリスの詩人。マルクスやフロイトの思想を駆使した詩劇を発表、人間疎外に陥る社会に警鐘を鳴らして名声を得る。次第に政治的な主題から離れて宗教的になり、信仰と知性の葛藤を包摂する愛を歌った。代表作に『新年の手紙』、『不安の時代』等がある。

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