執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。
真の愛は、苦しみの中にしか存在しない。
《 No hay verdadero amor sino en el dolor. 》
私の青春は、魂の苦悩そのものでしかなかった。私は生きることに苦しみ、死の哲学のゆえに嗚咽し、生の文学の中に悲痛を感じ続けていた。私は呻吟していたのだ。私の魂は、慟哭の叫びと忿怒の炎によって爛れ果てた坩堝と化していた。愛の重力が、私の魂を圧し続けたのである。愛が自己の生命に、幸福をもたらすとは私には思えなかった。愛の無常を私は感じ続けていたのだ。私にとって、愛はこの世で最も大切なものに思えた。しかし、それはまた最も悲しいものだった。
私は、そういう青春を送った。そして、青春のど真ん中でこのスペインの哲学者に邂逅したのだ。ウナムーノの苦悩は、私などの比ではなかった。しかしウナムーノは、その苦悩の中から、私の知る最も魅力ある思想を打ち立てたのだ。ウナムーノとの出会いが、私の青春を救い上げてくれたのである。私の苦悩は、この言葉に出会って自己の生命の奥深くに沈潜することが出来た。つまり、私の武士道の中に、愛を浸潤させることが出来たのだ。
ウナムーノは、冒頭の言葉に続いて「そして、この世においては愛の苦悩を選ぶか、幸福を選ぶかのどちらかしかない」と言っている。つまり生きるとは、魂の愛を求めて苦悩するのか、またはすべてを諦めて幸福になるしかないということだ。私は、この清冽な哲学に出会って、苦悩の人生を生きる喜びを確信することとなった。私は愛を求める。人間実存の原点を求めて生きようと決意した。たとえ、そこが到達不能だとしても、私はそこへ向かって生きる。
2019年8月5日