執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。
情けないことをしやがって!
《 Malédiction ! 》
この短編小説は、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』と並んで、私の人生に決して消えぬ刻印を捺した。それは、この主人公マテオの人生が、武士道の極点を示していたからに他ならない。到達不能の崇高性を私は感じたのである。いかなる悲哀が、またいかなる絶望が、これほどの凄絶な人生を可能としたのか。コルシカ島の実話に取材したこの文学に、私の葉隠精神は打ちひしがれたのだ。ただ一度の卑怯な裏切り行為をもって、命よりも大切な息子を殺した父親の物語が綴られていた。
この宇宙的真実は、私の武士道の前に突き立てられた剣である。真の人類がもつ、最大の崇高性を私はここに感じているのだ。この生の実存の前に立てば、自己の何と卑小なことか。情けないことを嫌う精神が、人間の魂を築き上げて来た。その精華が大宗教であり、また騎士道と武士道を生み出したと思っている。そして、私はその武士道に自己の人生と命を捧げているのだ。しかし、その道は果てしなく険しいものだった。到達不能の憧れが、遠く煌めいていた。
武士道とは、実は簡単なことなのかもしれない。それは、情けないことを拒絶する精神によって成り立つ。しかし、その簡単なことに、何と果てしない道程があるのか。マテオと比べ、この私は何と卑小な魂か。情けないことを嫌う生き方の真髄を、私は小学校五年のときに知ったのだ。それが出来るか、出来ないかは私自身に向けられた命題である。どうなるか分からぬが、私は心の底からこのマテオ・ファルコーネを尊敬しているのだ。マテオの言葉は、私の心に毎日突き刺さって来る。
2022年1月29日