草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • マクシミリアン・ド・ロベスピエール「テルミドール八日の演説」より

    死は、不死の始まりである。

    《 La mort est le commencement de l‘immortalité. 》

  ロベスピエールは、フランス革命の精神だった。善悪の彼岸に、その精神は屹立していた。それがフランス革命の純粋性を体現していたことに間違いはない。三十六才にして、革命が為した残虐の責任を取り逮捕処刑されたのである。その日をもって、フランス革命の理想はこの世から消え去った。あとに残されたものは、戦争と征服の日々だけであった。ジャコバン党を率いたロベスピエールに対する批判は、歴史を覆っている。しかしロベスピエールなくして、フランス革命はなかったのだ。
  その恐怖政治の中に、人間の魂の叫びを聞き取るのは私だけではあるまい。革命は悲惨である。しかし、そこには必ず人間の魂から滴る美しいものがあるのだ。私はそれだけを見つめていたい。いかなる悲惨に見舞われようと、人間の理想を仰ぎ見なければならない。理想を追い求めることだけが、我々人類の存在理由である。革命の悪を問うてはならない。そうではなく、その涙の中を生き抜いた人間の理想の美しさを感ずるのだ。理想だけが、人類を生み人間の魂を育てた。
  ロベスピエールは、理想に生き理想に死んだ人物だった。その人物を生み出した覚悟を、私はこの冒頭の言葉の中に見ているのである。魂の理想のために、自己の肉体を捨てている。肉体の生命を理想に捧げることが、人類を人類たらしめる力を養った。死を厭う者は動物である。人間の魂とは、死を乗り越え永遠に向かう気概の中に存する。肉体を捨て、魂の永遠に生きることなのだ。生きるとは、死ぬことである。死の覚悟によってのみ、永遠の理想が魂の核に生まれて来るのだ。

2022年11月19日

マクシミリアン・ド・ロベスピエール(1758-1794) フランス革命の指導者。パリの名門校ルイ・ル・グラン学院に入学。その後、法学修士号を取得して弁護士となる。のち代議士となり、革命の指導者として活躍。恐怖政治を強行し、多くの人間を処刑したが、自身も最後には革命広場で処刑された。

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