執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。
人生は、いつだって命がけだ。
《 Leben ist immer lebensgefährlich. 》
ケストナーは、私の最も愛する文学者のひとりだった。ケストナーのもつ洒脱の精神は、いつでも私の憧れを昂らせてくれた。それは小学校三年生のときに、『空想男爵の冒険』という本を読んだことに始まった。そこに閉じ込められている「笑い」の精神は、人間の心に爽々しい風を吹き込まずにはいないだろう。常に男らしい足取りをもって、その人生に立ち向かっていた。その男らしさが、ケストナーの芸術を支えていたに違いない。私はケストナーの中に、武士道を感じていたのだ。
冒頭の言葉に出会ったとき、ケストナーの生命が私の魂に溶け込んで来た。ケストナーの魅力が、私の肚に落ちたのだ。人生にはあらゆることがある。善いことも悪いことも、交互に来るだろう。しかし一つだけ言えることは、そのすべてが自分の運命であるということなのだ。その運命に命がけで向かった者だけが、自分の人生を摑むことが出来る。生き方とは、それ以外には決してない。善い生き方、悪い生き方、賢い生き方、馬鹿な生き方。どれも間違っている。
生き方とは、命がけの体当たりしかないのだ。それ以外は、すべて嘘である。人生とは、その結果がいかなるものであれ、命がけの燃焼にだけ価値がある。自分の人生に起こることのすべてを愛すること。それだけが体当たりの人生を生み出す秘訣なのだ。つまり、自己の運命を抱き締めるということに尽きる。自己の運命が、自分の生まれて来たいわれである。それ以外に自分の存在理由はない。自己の運命に体当たりをしなければならない。いま私の運命の中を、爽々しい風が吹き抜けて行く。
2022年11月12日