執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。
愛は死のように強い。
人間にとって一番大切なものは、愛である。そして人間にとって一番確実なものが、死なのだ。この二つは、無限弁証法的に人生とかかわり、我々の実存を支えている。愛の貫徹は、死を覚悟しなければ出来ない。死と隣り合せでない愛は、すべてが嘘と言ってもいい。我々が本当の死を迎えられるか、迎えられないかは、人生における愛の実行にかかっている。愛は死であり、死はまた愛なのだ。それが肚に落ちたとき、私は自分の新しい生誕を感じることが出来た。
私は武士道だけで生きて来た人間である。『葉隠』がそれだ。その「死の哲学」を私は抱き締めて生きて来た。その人生を本当に幸運だったと思っている。死の哲学を人生の根本に据えることによって、何か本当の生が分かったように思えるのだ。日々の死の訓練が、日々の生を与えてくれた。生の根源に、私を近づけてくれたように感じている。生の根底に横たわる、愛の淵源を私に感じさせてくれたように思うのだ。死が、愛を教えてくれた。その順序は、決して違えることは出来ない。
死を見据えなければ、決して愛は分からない。私はそう思う。愛は、愛をいくら考えても、決して分からない。愛ほど大切なものはなく、また愛ほど人を誑かすものもない。私は、死の哲学に生きて来たことを誇りに思う。ほんの少しだが、愛に触れることが出来たからだ。愛は少しでいい。人間は、ただ一回の愛で一生を生きることが出来る。愛は死と同列のものなのだ。多くを求める者は、愛を知ることは決してないだろう。愛ほど大切なものはない。だから、それは一回でいい。
2019年11月18日