草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • フリードリッヒ・ニーチェ『ツァラツストラかく語りき』より

    人間は、克服せらるべき「何ものか」である。

    《 Der Mensch ist etwas, das überwunden werden muß. 》

 我々人類には、何よりも重大な使命がある。それは、人間とは何かを追求することである。宇宙の根源を思い、人間の実存の意味を問い続けることだと言ってもいいだろう。そのために、我々は生きているのだ。そのために、我々は命をかけているのだ。そのためにのみ、我々の本当の死は与えられている。人間とは、そういうものだ。我々は、そう考え続けるために存在する。それが、我々人間の宇宙的実在なのだ。つまり、人間の宇宙的使命ということになろう。
 私は、ただひたすらに人間の燃焼について考えて来た。私が、なぜ人間として、この大宇宙に存在しているのかということに尽きる。つまり、人間とは神を志向する生き物なのだ。そのためにのみ、我々には「人間の魂」と呼ばれるものが与えられている。そして、その魂が活動するためにのみ、この肉体があるのだ。それが人間の実存というものだろう。それが人間の燃焼というものに違いない。人間として生き、人間として死ぬ。そのためだけに、我々の人生はある。
 我々は、永遠に向かっているのだ。我々にとって、完成というものは無い。我々の苦悩と呻吟によって、宇宙の根源は癒されるのである。我々の精神が、宇宙の実在に向かえば、我々の使命が果たされていく。その途上にある生命が、我々であるに違いない。我々は、偉大でも崇高でもない。我々は、そうなろうとする宇宙的実在なのだ。根源に向かう憧れが、我々の実存である。人間とは、永遠に人間に至りたいと願う生命なのだ。涙と共に生まれ、涙と共に生き、涙のように去らなければならない。

2019年12月16日

掲載箇所(執行草舟著作):『「憧れ」の思想』p.12
フリードリッヒ・ニーチェ(1844-1900) ドイツの哲学者。伝統的形而上学と既存のキリスト教倫理思想を否定し、超人思想や永遠回帰といった言葉で有名な思想を構築。その影響は、のちの文学や哲学に多大なる影響を与えた。代表作に『ツァラトゥストラはかく語りき』『善悪の彼岸』等がある。

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