草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • エルヴィン・シュレジンガー『生命とは何か』より

    生物は、負のエントロピーを食べて生きている。

    《 What an organism feeds upon is negative entropy. 》

  エルヴィン・シュレジンガーは、私の最も好きな物理学者のひとりである。その業績は、量子力学における波動方程式の提唱と、分子生物学の確立を可能ならしめた遺伝子構造の解明が挙げられる。どちらの業績も、私の生命論の基礎を創り上げることを促した理論である。まさに恩人の中の恩人とも言えよう。『生命とは何か』の他に、『統計熱力学』『時空の構造』は高校生以来、私の座右に積まれている。私の提唱する「負のエネルギー」は、その発生をシュレジンガーに負っているのだ。
  冒頭の言葉が、それを記念する出発の思想となった。宇宙の存在物はすべて、エントロピーの法則の下にある。熱力学第二法則は、このエントロピーの増大を言っており、宇宙の真実の最右翼となっている。つまり、形あるものはすべて崩れ去り、無限の混沌と平衡の下に帰するというものだ。ところが「生命」だけが、この絶対法則に抗して戦っている。その戦いの時間的係数を、我々はその生命の「寿命」と呼んでいる。その戦いは、負のエントロピーを食べ続けることによって為されているのだ。
  エントロピーに抗する力を、負エントロピーと言う。つまり、我々の生命の戦いの力である。その負エントロピーを支える実在が負のエネルギーなのだ。これが、私の魂の理論を創るきっかけとなった。生命を支える力はその負のエネルギーにある。負のエネルギーの中でも最も細かい粒子こそが、我々人間の魂を創る素粒子となる。私は、それを直観した。そして粒子は細かいほど宇宙的価値が高いことも分かった。愛や信や義などの我々の魂は、宇宙で最も価値の高い粒子で創られている。

2020年12月7日

掲載箇所(執行草舟著作):『「憧れ」の思想』p.24、『生命の理念Ⅰ』p.37
エルヴィン・シュレジンガー(1887-1961) オーストリアの理論物理学者。物質の波動性に基づく「波動力学」を打ち立てた。そのほか、行列力学と波動力学の数学的等価性の証明など、量子力学の発展にも多大なる貢献をなした。著作に『私の世界観』、『生命とは何か』等。

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