執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。
我々は人間なのだから、人間のことを思わなければいけない
と言う人たちに従ってはならない。
ソロンは、古代ギリシャにおいて、人類最初の民主主義政治を行なったことで知られる。ギリシャ七賢人のひとりに数えられ、その教養と人格は今に言い伝えられている。ソロンには、その言行を記録した『断片集』がある。深い英知に裏打ちされたその言葉は、今に至るも全く古びることがない。そのソロンが、民主政治の奥義として述べたものが、冒頭の言葉なのだ。私は最初に読んだとき、我が目を疑った。近代の洗礼を受けてしまった人間は、この意味を分かるのに時間がかかるのだ。
しかし、これを睨み付けていると、途轍もない英知が浮かび上がって来る。現代の我々が麻痺してしまった大切な事柄である。それは我々人間が、自分たち人間のことを、自分自身で大切にしていれば世話もないということなのだ。手前味噌とも言うが、ヒューマニズム思想に冒された現代の人間は、自分たちを高等な存在だと自分で言っている。そして恬として恥じない。また、その人間大事を政治の売りものにしている政治家を、信じてはならないと言っているのだ。
これは実に筋が通っている。私は自分の現代人的弱点を思い知らされた思い出がある。大学一年のときだった。私はその不明を恥じて、現代民主主義の勉強を徹底的にやったのだ。私はこのソロンの定義は、民主主義の基本だと思っている。人類は、もっと謙虚にならなければならない。ソロンの時代でも、すでにこうだった。それから二千年以上が経ち、今はすでに人類は自分たちの自惚れによって滅びようとしている。そろそろ、「人間のため…」と言って、すべてを許すことはやめなければならない。
2021年2月1日
掲載箇所(執行草舟著作):『現代の考察』p.319,357,385