草舟座右銘

戸嶋靖昌展 ― 縄文の焔と闇 ―

執行草舟による図録論文 抜粋

 戸嶋と私の友情は、革命の精神を生きる生き方によって成り立っていた。それぞれの運命に抗う、反運命の精神である。反運命とは、自己固有の運命に真正面から体当たりすることによってのみ成り立つ。だから反運命とは、未知に覆われた自己の運命を真に愛することに繋がっている。そこから、真の革命が生まれる。そして芸術が、そこに寄り添って来る。アンドレ・マルローは「芸術とは反運命である」と言っていた。戸嶋は自己の運命を本当に愛していた。だからこそ自己に与えられた最期の運命に向かって、魂の戦いを挑もうとしているのだ。
 本当の意味で、戸嶋は自己の運命の中に死に切ることを決意した。真の愛を知る者にしか出来ないことだろう。戸嶋の中で、重力からの解放が起こったように見えた。重力によってのみ描き続けた画家から、ひとつの重力が去った。そのとき、戸嶋の生命は新しい未知と遭遇したのだ。それは喪失ではなかった。新たな重力が到来したのである。地上に打ち放たれていたひとつの重力は去った。そして降り下った全く新しい重力が、戸嶋を衝き動かしていた。彼方から来たに違いないその重力は、私にはたおやかに光る革命に思えた。
 戸嶋の生き方は崇高だった。いかなる不幸も、戸嶋の魂を打ち砕くことは出来なかった。だからこそ、戸嶋の人生は誰にも分かり得ぬ悲しみを抱えていたのだ。その悲しみが戸嶋と私の友情を育んだ。孤独な魂の邂逅だったのかもしれない。そしていま、戸嶋は確実に飛翔しようとしていた。重力の変換によって、その飛翔は新しい幸福を見出すに違いない。現世において修羅を生きた男は、それゆえにこそ、また救済されるのだろう。戸嶋靖昌の壮大な終末が、間近に迫っていた。

「戸嶋靖昌逍遥」執行草舟による論文より
  • 戸嶋靖昌展 ― 縄文の焔と闇 ― チラシ
  • 戸嶋靖昌展 ― 縄文の焔と闇 ― 特設サイト
戸嶋靖昌展 ― 縄文の焔と闇 ― 特設サイト
〈展覧会名〉
戸嶋靖昌展 ―縄文の焔と闇―
〈会期〉
2020年10月24日~2021年1月10日
〈概要〉
秋田県鷹巣町(現北秋田市)を父祖の地とする洋画家・戸嶋靖昌(1934-2006)。父の赴任先である栃木県塩谷郡で生まれた戸嶋は、ほどなく秋田に戻り、幼少期を秋田で過ごします。大館鳳鳴高等学校から武蔵野美術学校へ入学し、卒業後、40歳のときに渡ったスペインで30年近く制作を行いました。厳しい自己否定、自己の葛藤をキャンバスに叩きつけた独自の様式が、戸嶋作品の特徴です。人間の存在そのものを燃焼させた焔のような画面は、スペイン時代の修練によるものですが、戸嶋の根源には、その血脈に潜む反骨の精神と、縄文時代の生命力を秘めた秋田の風土がありました。本展では、初公開の大型作品を含む油彩画、彫刻作品約120点、戸嶋の撮影した写真や遺品など合わせて200点以上の資料の展覧により、その画業の全貌を明らかにし、孤高の人物像を浮き彫りにします。
〈特別サイト〉
戸嶋靖昌とは何ものか 図録はこちら

ページトップへ