執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。
国家は廃止されるのではない。それは死滅するのである。
「国家は死滅する」、この有名なテーゼはエンゲルスが、その『反デューリング論』において述べた言葉だった。それはロシア革命を導き出す根本的哲理の一つとなった。なぜなら、革命の指導者レーニンが、この命題をもってロシア革命の原動力とすべく、自著『国家と革命』の根幹を支えるセントラル・ドグマと成したからである。私はこの書に高校生のとき出会った。私の最も愛する文学者 埴谷雄高の感化による。私は共産主義は大嫌いだったが、一つの国家論としていたく感動したのだ。
共産革命には、動かしがたい真実があった。それは、国家というものの正体をこの世に知らしめたことに尽きる。共産主義が秀れているのではない。資本主義と民主主義の根本的悪徳を暴き出したことにその価値がある。民主主義の矛盾を、ロシア革命ほど知らしめるものはない。傲り高ぶる人間を截断する思想が、ロシア革命にはある。後に、自らもそれに呑み込まれてしまうが、その初心には清く美しいものがあるのだ。私はその初心を愛する。私はレーニンの思想に、人類の夢を感じている。
国家は死滅する。私もそう考えている。人類の歴史に鑑みて、私もそう思うのだ。また、そうならなければならない。「近代国家」と呼ばれるものが、人間を低俗にして来た。それは間違いないことだ。民族でも国でもない。「国家」が問題なのだ。国家は自己の権力の温存のために、人間の家畜化を推進している。私はそう確信する。国家は自己が生きのびるために、人類そのものを犠牲にしようとしている。冒頭の言葉に見えるロシア革命の初心は、今まさに人類全体の問題と成りつつあるのだ。
2021年4月19日