草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • ルネ・ド・シャトーブリアン『ルネ』より

    待ち望む嵐よ、()く巻き起これ。

    《 Levez-vous vite, orages désirés. 》

  私は、人類の使命とは何かだけを考え続けて生きて来た。自己の魂の奥底に渦巻く、宇宙の意志と語ることだけを考えて来た。『葉隠』の武士道を通して、私は自己が人間に生まれた意味を問い続けているのだ。この煩悶は、私の命が尽きるまで終わることはない。私は、人類の使命を追求する事象だけに興味をもつ。そして、どうすればこの姿勢を崩さずに、自分の人生を全う出来るかということも考え続けているのだ。その答えの一つを、私は冒頭の言葉の中に見出したのである。
  それは大学二年のときだった。フランス語の授業の副読本にこの『ルネ』を選び、原文と訳書の対比によってこれを読んだ。ルネの清純は、私の武士道と激しい親和力をもって共振した。そして、この文に出会った。同じ魂をもつ者から、その答えが返って来たのだ。私は自己の人生において、困難を待ち望むことこそが、人類の使命に近づく道だと合点したのである。自己の安楽と成功、そして何よりも幸福を求めれば自己の生命は腐る。それが肚に落ちたのだ。
  私はそのとき、自己の運命に体当たりする決意を獲得した。困難を待ち望むことを受け入れることによって、それは容易く決断できた。シャトーブリアンの思想によって、私は運命の大海原に出帆する覚悟が出来た。人類の使命に向かって、直進することを止めていたものは自己保全の思考である。私は自己の平安の望みを捨てた。それをさせる力が、シャトーブリアンにあったのだ。困難に出会ってもい、ではない。困難を自ら積極的に望むのだ。困難な運命に憧れる自己になる。そうすれば、宇宙的使命が降り注いで来る。

2021年4月26日

ルネ・ド・シャトーブリアン(1768-1848) フランスの小説家・政治家。貴族の家に生まれ、反革命軍に参加。負傷しイギリスへ亡命するが、帰国後はナポレオンのもとで公職を経験する。王政復古後はイギリス駐在大使、外務大臣などを歴任した。ロマン主義文学の先駆者として知られる。代表作に『ルネ』、『アタラ』、『キリスト教精髄』等がある。

ページトップへ