執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。
芸術とは、反運命である。
《 L’art est un anti-destin. 》
我々は、運命によって宇宙の根源と繋がっている。我々の生は、その運命に向かって生きているのだ。運命がもたらすものが、真の自由を生む。本当の人生に与えられる自由だ。我々は、自己の運命と出会うために戦っている。そして、それは自由を求める戦いともなっているのだ。自己の運命と、人間の自由は互いに響き合う。運命を生きた者だけが、真の自由と出会うことが出来るだろう。運命は、自己の運命を阻害する要因によって、その原動力を得ているのだ。
運命は、その反運命の力によって無限の弁証法的回転を得ていると言えよう。人類の歴史は、その反運命を宗教から得ていた。信仰の掟が、我々の運命を苛んだのだ。それによって、我々の運命はその崇高を得ていた。宇宙の掟が、我々を打ちのめしてくれた。それが我々の運命の展開を助けていた。しかし、その宗教と信仰は二十世紀に至って死滅したのである。もう我々は本当の信仰に戻ることは出来ないだろう。その信仰に変わるものを、私は魂の芸術に感じている。
現代においては、芸術の力だけが我々の運命と対決することが出来る。我々の運命を打ちのめす力を持ち得ることが出来るのだ。現代の我々は、魂の芸術を真に愛することによってのみ、自己の運命を回転させられるだろう。自我を打ち砕く力を有する芸術と出会うことが大切である。それだけが我々の運命を、真の実在へと飛躍させるのだ。真の芸術とは、我々の運命に抗う「何ものか」である。多分、その芸術は高貴で野蛮な雄叫びを上げているだろう。それは我々を恐れさせる「実存」に違いない。
2021年7月5日
掲載箇所(執行草舟著作):『根源へ』p.148,232、『現代の考察』p.416,444、『孤高のリアリズム』p.252