執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。
最上の人生は、陶酔にほかならない。
《 The best of life is but intoxication. 》
自己の人生を、一篇の詩と化することが出来るか。それは、すべての人間に与えられた命題と言ってもいいだろう。その命題を、そのまま人生となした人物がバイロン卿に他ならない。自己の人生を、その運命の中に投げ入れ切った人生だった。つまり、生きながらにして「伝説」となったのだ。そしてその文学は、青春の血潮が煮え滾る碑である。本書の他に、その波乱の運命を語る『チャイルド・ハロルドの遍歴』は、長く人間の魂の神秘を穿つ芸術となった。
私はバイロンの影響を強く受けて育った。それは明治の青年たちが、青春の熱情を語るときに必ず挙げていた人物だからだ。小学生の時に、与謝野鉄幹の「人を恋ふる歌」を私は愛した。その歌にも、また歌われていた。「あゝわれダンテの奇才なく バイロン、ハイネの熱なきも…」と歌われたあの歌だ。ダンテやハイネと並んで、バイロンは無条件に私の青春を創り上げることになってくれた。すべての著作を貪るように読んだ。その高貴と野蛮が、私の心を打ち続けた。私の武士道が震えていた。
陶酔とは、ただの熱情ではない。それは、死ぬための熱情である。生きることのすべてを否定した先に存する、真の魂の慟哭と言っていいだろう。つまり、究極の人間燃焼を言う。この陶酔が、私の魂を震撼させてやまないのだ。この陶酔に、私は自己の武士道を感ずる。武士道は、熱情では足りないのだ。狂気が必要なのかもしれない。しかし私は陶酔を取りたい。それは、無限のロマンティシズムを湛える矜持に違いない。生命が放つ慟哭の涙である。
2021年8月7日