執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。
私を殺すものが、私を強化しているのである。
《 Ce qui me tue me conforte. 》
これは、人間の未来を思考するフランスの哲学者ミシェル・セールの根本思想の一つである。我々ホモ・サピエンスの本質と言ってもいいだろう。セールは人間の未来について、この根源思想から始めているのだ。この根本を抱き締めている限り、我々の未来は明るい。しかしこの根本を忘れたとき、我々は滅びる。我々の肉体は、異物と戦う免疫と不断の鍛練によって生きている。そして我々の精神は、絶えざる苦悩と悲痛の先に存する希望によって支えられているのだ。
優しいもの、自己を癒してくれるものはみな、私の存在を弱体化せしめている。我々のもつエネルギーは、他者の理解を得たとき消滅する。生命とは、重圧によって生かされているのだ。我々の肉体は重力によって整えられる。我々の精神は、死の恐怖を撥ね返す勇気によって立ち上がっている。我々の生命活動を司る酸素は、また我々をその酸化作用によって殺し続けているのだ。我々は自己の敵によって、生かされているのである。その真実が、我々の出発とならなければならない。
現代のヒューマニズムが、我々人類を滅ぼそうとしている。人間の「幸福」が、人間を滅ぼすのである。「人権」が精神を蝕み、「保障」の思想が人生を奪っている。現代ほど、私は自己の武士道に恩義を見出すことはない。『葉隠』が、私の肉体と精神を鍛えてくれた。それは、私を殺す思想だった。その殺す思想に、私は自己の未来を見出していたのだ。私の中で、人類の「原始」が蠢いていたに違いない。私はホモ・サピエンスのもつ原始の力によって、自分の運命が立ち上がったことを実感している。
2021年12月4日