草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • ミルチア・エリアーデ「公開講義録」(1970年シカゴ、ロヨラ大学にて)より

    固定点―中心―の発見や投影は世界の創造に等しい。

    《 The discovery or projection of a fixed point―the center― is equivalent to the
    creation of the world. 》

  私は『葉隠』の武士道だけを信じて生きて来た。それ以外のものは、すべて拒絶したと言っても過言ではない。葉隠の生き方とその死に方を貫徹するために、他のすべてを経験し学んで来たのだ。だから私の経験はすべて、葉隠の思想にしか辿り着かない。私の知識はすべて、葉隠の思想を地上に実現するための方便に過ぎない。つまり私は、良くも悪くも、自己の中心点だけが定まっている人間なのだ。私の欠点はすべてがそこに由来し、また長所のすべてもそこから派生している。
  葉隠のために、最も役立ったものの一つに宗教がある。その他には科学と芸術だろう。その宗教の研究の多くを、私はこのエリアーデに負っている。その『世界宗教史』は、私の座右を離れたことがない。道元とマルチン・ブーバーの横に、いつでもエリアーデはいた。冒頭の言葉を知ったときは、大学生だった。私はこの言葉によって、自己の生き方が立ったように思う。現代の中で、すべての人から蔑まれた生き方をした者をよしとする人物がいたのだ。私の青春は燃え上がった。
  自己の中で、世界が創造されない限り、生命の真の燃焼はない。人間は、世界の中を生きているのではないのだ。我々は、自己の人生を生きている。つまり、自己に与えられた運命を生きているのである。一人ひとりに与えられた運命は、それぞれにひとつの宇宙的使命を持っている。それを発動させることだけが、人生の目的なのだ。そのためには、絶対に動かぬ自己の中心軸を持たなければならない。自己が立てば、真の世界が構築されて来る。偏見と偏りが、真の希望を生み出すのだ。

2021年12月28日

ミルチア・エリアーデ(1907-1986) ルーマニアの宗教学者・文学者。大学卒業後、イタリア、インドに留学。哲学と宗教を学んだのち大学の助教授をしながら作家として活動。第2次大戦中は外交官として各地をまわりながら研究生活を送った。膨大な学術書、論文等を残し、特に宗教研究の分野で著しい業績を残した。『永遠回帰の神話』、『イメージとシンボル』等。

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