草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • フリードリッヒ・シラー『美と芸術の理論』より

    美とは、それゆえ、現象における自由に他ならない。

    《 Schönheit also ist nichts anders als Freiheit in der Erscheinung. 》

  人間にとって、最も大切なものは何か。その答えはやはり、自由を措いて他にはないだろう。その自由を語るとき、我々はどうしてもシラーを忘れることは出来ないのだ。我々がいま享受している近代的自由は、シラーによって初めて謳われたのである。人類は、自由の概念をシラーによって芸術と化したのだ。あのベートーヴェンは、シラーの思想に触発されて偉大な「第九交響曲」を作曲した。シラーの戯曲『ウィルヘルム・テル』は、長く人類の自由の象徴であり続けるだろう。
  そして冒頭の言葉は、そのシラーが語った自由の本質の最も根源的なものの一つなのだ。真の自由が、我々人類のもつ美しさの根本を創っている。自由とは、政治的な人権などという安っぽいものではない。自由は、人間のもつ美しさを支えている。自由は、人間存在のすべてに美をもたらすことが出来る。自由がなければ、人間の存在はその醜悪さに覆い尽くされるだろう。人間はその生命の自由によって、自己の醜悪と戦い続けて来たのだ。人間の魂の尊厳のために、我々の祖先はその命を捧げた。
  人間の美しさの根源は、自由のための戦いにある。人間としての在り方を模索する苦悩の中に、人間の自由は響き渡る。苦悩なき自由は、放縦に流れて終わるのだ。魂の呻吟が、人間の本当の自由を摑み取るだろう。苦悩する魂の中に、人間は自己存在の美しさを見出して来た。それは人類の偉大な歴史が証明するものと成っている。そして人間はその外面すら、努力し苦悩する者の姿に真の自由とその美しさを見て来たのである。

2022年2月26日

フリードリッヒ・シラー(1759-1805) ドイツの劇作家・詩人。軍人学校で法律や医学を学んだのち、劇作家として執筆活動に励む。戯曲『群盗』で成功後、各地を転々としつつ、戯曲、思想詩、歴史評論などを次々と発表。終生、交友を持っていたゲーテとの友情は有名。『ウィルヘルム・テル』、『たくらみと恋』等。

ページトップへ