執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。
若き日に、私は人類の未来を憂い、死ぬほどに苦しんだ時期があった。今のこの人類に、本当に未来は訪れて来るのだろうか。コンラート・ローレンツの研究と相まって、私の苦悩は深刻だった。自己の崩壊が食い止められた原因は、ただに母親から受けた慈愛の思い出だけしかなかった。神を失った我々は、もう己れの欲望に歯止めをかける「思考」そのものを失ってしまったのだ。自らを神となした人間は、神々の黄昏に向かっているに違いない。
そのようなとき、私はこの言葉と出会ったのだ。乾き切った土が水を吸うように、私の魂の奥底にこの思想は響いたのである。私の中で、歴史の不合理が蠢き出した。現実社会の矛盾が、一挙に噴き上がったのだ。歴史を殴打し、現代に斬撃を喰らわす衝動に私は駆られた。つまり、私は人間に生まれた不幸を、この言葉によって味わわされたのだ。その不幸が、私に未来を突き抜ける力を与えてくれた。人類の不幸を嚙み締めるとき、人は真の未来を志向することが出来るのだ。
古を慕い、今を愛するなら、人類に未来はない。人類は、自らを愛することによって滅びるだろう。私はその真実を、この思想によって得たと思っている。古は斬り裂かねばならぬ。今はぶち壊す対象なのだ。その逆説が真の未来を生み出すように思える。私は満足が、自己の未来を潰すという真理を、この言葉によって得た。私の悩みは、恵まれた人間の悩みだったのだ。人類の滅亡は、その幸福によって起こるだろう。人間として生きようとすれば、我々は歴史を許してはならない。今を認めてはならない。
2022年3月5日