草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • プロティノス『エネアデス』より

    偉大にして最後なる戦いが、人間の魂を待ち受けている。

  プロティノスは、紀元三世紀のローマを生きた、古代ギリシャ哲学の最後を飾る哲学者である。哲学史では、新プラトン主義を拓いた人物と言われている。私はギリシャ哲学において、プラトンと並んでこのプロティノスを深く愛して来たのだ。その理由は、プロティノスがプラトンの霊魂の理論を地上的に展開発展させたからである。私はプラトンのイデア論を、プロティノスによって理解することが出来たのだ。私はプロティノスの理論に、宇宙の根源的実在の把握を見ていると言えるだろう。
  プラトンの二元論は、プロティノスに至って根源的な「一者」という実在を持った。一者から流出する「知力」が、宇宙を形成していると説かれている。その流出は、無限核融合のごとくに、宇宙に充満していくのだ。そして、それは人間の魂を形成して、その循環を締め括っている。私はその壮大な魂の物語に、血湧き肉躍るのである。我々の魂の故郷である「一者」の存在に、私は限りない憧れを抱くのだ。到達不能の憧れとして、私はプロティノスの「一者」を思い浮かべている。
  人間の魂の崇高が、プロティノスの哲学を築いている。プロティノスは、自身の崇高な魂の故郷を求め続けているのだ。そして冒頭の言葉となった。これは人間の魂を支えているものが、勇気とそこから流れ出る美学であることを示しているのだ。後に騎士道を生む思想と言えるだろう。戦いと死の覚悟だけが、真の人間の魂の崇高を支えることが出来る。私はこのプロティノスの哲学に、葉隠の武士道と全く同じものを感ずる。自己の魂に崇高の存在を願う者は、この宇宙における最後の魂の戦いを戦い抜く覚悟が必要なのだ。

2022年3月12日

プロティノス(205頃-270) ギリシャの哲学者。新プラトン主義の創始者。プラトンのイデア論を継承しつつ、二元論を克服し、「一なるもの」を神とし、この存在と人間は一体化して根源へ帰還できるとした。この思想は中世スコラ哲学に大きな影響を与えた。『エネアデス』等。

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