執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。
死をあらかじめ考えることは、自由を求めることである。
《 La préméditation de la mort est préméditation de la liberté. 》
私はモンテーニュの『エッセー』から、多くの英知を学んで来た。それは中学生のときに始まり、今日まで続いている。モンテーニュのもつ騎士道精神は、よく私の武士道を思想的に支えてくれた。「哲学を学ぶことは、死を学ぶことである」という言葉に出会い、私はこのモラリストを生涯の師と感じたのだ。死の問題を厭えば、モンテーニュは決して分からないだろう。『葉隠』に生きる私は、モンテーニュと出会うことが必然だったとずっと思っている。
冒頭の言葉は、私の人生で最も思い出深いものの一つとなっている。それは十六歳で三島由紀夫氏と出会い、文学論を戦わせたことの記憶に遡る。この言葉は、モンテーニュを私が好きなことを知った三島氏が、自分自身の思想を伝えるために私に示してくれた言葉なのだ。この言葉を中心として、私は三島氏と『葉隠』の思想と、それが人生にもたらす真の独立自尊についての話を交わした。死を想うことが、自由の根源を支えていると、私はこの話し合いによって初めて知ったのである。
それ以来、この言葉は私の座右を離れたことがない。青春を生きる私は、死の訓練に明け暮れていた。それが真の自由へ向かう道だったことを、今では確信するに至っている。真の自由は、死の覚悟によって得られるのだ。死を厭う者、幸福を願う者、健康を気遣う者はすべて、自己固有の自由な人生を歩むことは出来ない。それらの人々は、権力者に利用されるだけの人生を送るだろう。自由を求める者は、自分の足で立ち上がらなければならない。それには死の覚悟が必要となるのだ。
2022年4月23日
掲載箇所(執行草舟著作):『根源へ』p.89