執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。
進歩の理論は、過去と現在を犠牲にして未来を神化するものである。
ベルジャーエフは、人間のもつ歴史的運命について考察を続けた。その戦いの残滓は、多くの哲学的名著として今に伝えられている。人間の運命を、これほどに哲学化した人物はそうざらにはいない。ベルジャーエフの運命論は、その黙示録的な魅力によって光を放っているのだ。英国の歴史家アーノルド・トインビーによって文明論の基礎を築いた私の脳は、ベルジャーエフの一撃を喰らってコペルニクス的転回を果たしたのである。つまり、未来を予見する勇気を与えられたのだ。
私の脳髄の革命は、同書の中でベルジャーエフが放つ「人間の歴史的運命にあっては結局いっさいが失敗したのである」という言葉によって発動したのだ。この思想には決定的な衝撃を受けた。人類がこの地上に誕生した運命は、すべて失敗した。私は世界の宗教を研究して薄々はそう感じていた。人間の魂が成し遂げなければならぬ、人間独自の宇宙的使命がある。それに何度も挑戦し、すべて人類は失敗した。その結果生まれたものが、現代民主主義思想と進歩の科学思想だと私は感づいたのだ。
そうすると、現代のがむしゃらな進歩思想の意味が分かって来る。そして同書にある、冒頭の思想に気付いたのだ。我々人類を滅ぼしかねない今の科学文明を支える根本哲理は、眼の前の不安から逃避しようとする意識に違いない。過去を捨て、現在の享楽に逃げ、すべての「希望」を未来へ先送りする考え方だ。確かに、それが現代の無限経済成長思想である。私は自己の歴史哲学をもって、未来を予見する勇気をもった。この現代と戦うのが私の歴史的使命を創る。その確信を冒頭の思想によって私は得たのである。
2022年4月30日