草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • デキムス・ユニウス・ユウェナリス『風刺詩集』より

    真実に向かって命を捧げる。

    《 Vitam impendere vero. 》

  あのアーノルド・トインビーのラテン詩によって、私はユヴェナリスの魅力を知った。ローマ帝国において、この詩人は独自の思想を打ち立てていた。荒廃する帝国の魂のために謳い、そして文明が抱える悲哀について語り続けたのだ。享楽のローマを見つつ、その衰亡を憂いた。保障と娯楽に耽り出したローマ市民に向かって荒野の叫びを続けた。その「パンとサーカス」の件は、狂乱のローマを表わす言葉として今に伝えられている。古代における、勇猛と義憤の魂について私は多くを教えられた。
  その一つが、冒頭に掲げられた言葉なのだ。人間は、自分の命よりも大切なもののために生きなければならない。それは人類の宇宙的使命として、決定されていることだと私は思っている。もちろん私は、『葉隠』の思想に命を捧げている。それはすでに、私の宿命と化していることである。そして、その武士道に最もふさわしい言葉が、このユヴェナリスの思想だと感じたのだ。真実とは、日本の言葉では「誠」ということに尽きるだろう。誠に向かって生き、誠に向かって死ぬ。
  私の武士道が、あのローマ帝国に甦ったような喜びを感じた。ローマ最高の詩人の言葉の中に、私の武士道が重なったのだ。詩人はその詩の中で私に語りかけてくれる。「死の恐怖を乗り越え、いかなる苦しみをも耐え忍べ」。葉隠の思想が、私の中で再結晶化されていく。その結晶は、輝きながら未来を見つめているようだった。漆黒の中に、きらきらと煌めく蒼い焔を放って、その結晶は光っていた。私の中で、葉隠のロマンティシズムとローマ帝国のリアリズムが融合したのである。

2022年9月17日

掲載箇所(執行草舟著作):『生命の理念』Ⅰ・Ⅱ 書籍 帯に入れた言葉
デキムス・ユニウス・ユウェナリス(60頃-130頃) 古代ローマの風刺詩人。ヨーロッパ風刺詩の祖。ドミティアヌス帝お気に入りの役者を風刺する詩を書いていたことで、一時期ローマを追放される。退廃したローマの愚行、悪徳、卑劣を鋭く攻撃した。その著作に『風刺詩集』がある。

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