草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • アーノルド・トインビー『戦争と文明』より

    われわれの運命は、われわれ自身の手中にある。

    《 Our fate lies in our own hands. 》

 私の文明論は、その基礎をすべてトインビーに負っている。私はその『歴史の研究』を命がけで読んで来た。もし理解できなければ、死ぬ覚悟で読んだのである。そのような魅力が、この歴史理論にはあるのだ。愛の本質が、トインビーの中に渦巻いている。愛が何であるのか。それを歴史的に証明していると私は考えている。愛について、私はトインビーから学んだ。私が得た幸運の中で、それは最も大きなものの一つと成っている。
 愛の本質は、運命を抱き締めることである。自己の運命の先に、国家と文明のそれがある。国家と文明は、その運命を生命と宇宙の本源的実在に負っている。それらの現実を、本当に自己の中に受け取りそして認識することが愛を生み出す。愛と対立するものは、憎しみではない。それは、無関心である。無関心こそが、人間を堕落させ文明を滅亡させるのだ。自己存在の本当の認識によって、人間は人間として立つことが出来る。私の本当の運命は、文明や生命そして宇宙の運命と一体なのだ。
 人間は、運命を創る動物とも言える。自己の運命を愛し、それを本当に築き上げるのだ。その運命が、文明を動かし宇宙を震動させることを知らねばならない。自己の運命を愛する者は、すべてを愛せる者となるだろう。この世は発展することも、また衰亡し滅び去ることもあるのだ。その運命を握る鍵は、我々一人ひとりの運命の中に存在する。独りの人間の運命は、文明をも宇宙をも救うことが出来るに違いない。それを知ることが愛だ。

2019年10月28日

アーノルド・トインビー(1889-1975) イギリスの歴史家。大著『歴史の研究』の著者として知られる。国家ではなく、文明単位での勃興、隆盛、衰亡の過程を考察し、後の歴史学に多大な影響を及ぼした。文明の本質を人間の「原罪」との戦いと見る独自の視点で、世界史に残る文明論の先駆者となった。

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