草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • ピエール・ルコント・デュ・ヌイ『人間の運命』より

    「人間」の運命は、この世のものとは限らないということを
    決して忘れてはならない。

    《 La destinée de l’homme ne se limite pas à son existence sur
    terre et il ne doit jamais l’oublier. 》

  人間の運命について、私はずっと考え続けて来た。人間がもつ運命ほど、私を魅了してやまないものはない。私は小学生以来、六十年以上に亘って数万冊の書物を読んで来た。いま思えば、それもすべて人間の運命に対する好奇心のもたらすものだったように思う。運命ほど過酷なものはない。しかしまた、運命ほど魅力のあるものもないのだ。運命は恐ろしく、また深淵である。我々人間は、一人ひとりがその運命を与えられている。その宇宙的な幸運を私は感じているのだ。
  「運命への愛」(アモール・ファーティー)が、私の根本哲学である。人間は、自己の運命を愛すれば、あらゆる事象に通暁することが出来る。それは、自己自身がすでに宇宙の一環だからだ。自己の運命の中に、あらゆる現象が潜んでいる。あとは、それを掘り起こすだけなのだ。自己の運命を愛すれば、それが出来る。自己の運命の中に、宇宙と生命と文明の根源が横たわっている。自己の運命は、過去と現在と未来の時間を貫徹している。自己の運命は、この宇宙そのものである。
  悪運を憎まぬこと、そして不幸を厭わぬことが運命を抱き締めることに繋がる。運命に愛されなければならない。そのためには、自己の運命を無条件に愛さなければならないのだ。私は、そうやって生きて来た。それが私の最大の誇りを生み出している。私は自己の運命と共に生まれ、その運命だけで生き、この運命のゆえにこそ死ぬ。そして自己の運命のすべてを愛するのだ。生理学者ルコント・デュ・ヌイの著作に、私は自己の運命論の科学性を見出している。

2020年7月13日

ピエール・ルコント・デュ・ヌイ(1883-1947) フランスの生物物理学者・哲学者。表面張力の研究で知られ、独自に張力計を開発。ロックフェラー研究所のアレキシス・カレルのもとで勤務し、生涯で200を超える論文を発表した。代表作に『人間の運命』等がある。

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