草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • 西田幾多郎『善の研究』より

    愛は、知の極点である。

  西田幾多郎の哲学に挑んだのは、青春の早い時期だった。禅の深奥に触れたくて、夜を徹して読んだ記憶がある。『善の研究』『自覚に於ける直観と反省』など、その著作は多い。何も分からずに、それらを読み続けた。西田の思索の跡を追うつもりで読んでいた。西田哲学には、結論はない。西田の偉大な頭脳の中に展開される、思索の過程があるだけなのだ。その過程が、世界中のどの哲学にもない魅力を与えてくれる。著者と共に、その書物を一緒に創り上げていくような喜びがあるのだ。
  何も分からぬほど難しい哲学だった。それにもかかわらず、読めば読むほど深い味わいと喜びが湧き上がってくる。西洋哲学とは全く趣きを異にしている。何年も読んで分かったことは、西田と思索を共にすることが、その哲学そのものだったということなのだ。そして、これこそが日本の思想だろうと思った。禅の思想とは、思索を共にする喜びなのだと私は感じた。私は知と愛の混合を、西田哲学に強く感じた。それは知識と感情の融合ということでもあるだろう。
  知の中に愛を感じ、愛の中に知を認識する。それが日本の哲学のように思った。そしてその中心となった言葉が、冒頭を飾る思想なのだ。愛と知は交互に錯綜し続ける。そして、最後に愛の全面的な支配を受けるものこそが知なのだ。また、そうでなければならないのだろう。愛の支配を受けない知は、知ではない。西田哲学の核心を私はそう思った。この日本人の打ち立てた世界哲学を、我々日本人自身が忘れてしまったように思う。日本の未来は、西田哲学の先にある。

2020年8月31日

西田幾多郎(1870-1945) 哲学者。東洋思想を根底に置き、それを理論化して西洋哲学と融合しようと試みた。その思想を独自の西田哲学として樹立。のちの哲学思想に大きな影響を与えた。著作に『善の研究』、『自覚に於ける直観と反省』等がある。

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