執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。
恐るべき美が生まれた。
《 A terrible beauty is born. 》
これは、一九一六年アイルランド革命の夢と挫折を謳った詩の一節である。アイルランド独立を願う革命は、英国軍によって制圧された。それは夥しいアイルランド人たちの犠牲の上に終焉したのだ。その熱情が奏でられていく。その悲しみが響き渡るのだ。イエイツの深奥の涙が私の脳髄を浸食していく。そして、その震動が私の信念の中に、ひとつの美学を打ち込んだのである。それが、この冒頭の言葉なのだ。美の革命が、私の運命を襲うこととなった。
私の中に、真の憧れに基づく美の概念が創造されたのだ。私はそれまで、美を美しいものだと思っていた。しかしこの詩が謳う、この「思想」に出会うことによって、その考え方は破砕された。憧れが、美の中枢を占めることになった。人間の運命の「義」が、私の美を創り出すこととなったのである。生命の雄叫びとその悲しみが生み出す清冽が、私の魂に新しい美を刻印したのだ。それが、この「恐るべき美」という思想である。詩の中で繰り返されるこの言葉は、人間の運命に対する、ひとつの衝撃を創っている。
憧れの下に死ぬことが、この恐るべき美を生むのである。真の憧れが生み出す美が、この恐るべき美なのだ。私は自己の思想の中に、美の根源の実在を感じた。新しい美は、人類の夢の中に存する。それが二十世紀初頭の革命によって、生み出されたのだ。私はこの新しい美のために生きる。この恐るべき美に殉ずる覚悟が、私の肉体を貫通したのを実感した。その時、私は三十三才だった。妻を失い、わが事業はまだ生まれていなかった。
2020年9月28日
掲載箇所(執行草舟著作):『孤高のリアリズム』p.236