草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • ジョン・スチュアート・ミル『功利主義論』より

    満足した豚であるより、不満足な人間である方が良い。

    《 It is better to be a human being dissatisfied than a pig satisfied. 》

  魂の進化が終わったとき、我々人間の存在理由が消滅する。人間とは、永遠に向かって進み行く霊的主体である。その行く手にいかなる困難があろうとも、またいかなる悲痛が待ち受けていようとも、我々は不断に前進するのだ。その悲哀を抱き締めることだけによって、我々人間の歴史は刻まれてきた。私が人類の歴史から学んだことは、この一事に尽きる。この人間の営みを受け継ぐことだけが、きっと私の人生に意味を与えてくれるだろう。
いまここに、私はJ・S・ミルの言葉を取り挙げている。人間を定義する上で、最も偉大な思想と私が考えている言葉の一つだ。No.150の座右銘において、私はプロティノスの言葉を取り挙げたことを思い出す。あの「偉大にして最後なる戦いが、人間の魂を待ち受けている」という思想を言う。プロティノスは人間の生きる上での覚悟を語っていたのだ。その覚悟の、地上的展開がこのミルの言葉だと言っていいだろう。日々の生活における、我々の生きる上での姿勢をミルが我々に問いかけているのだ。
  人間は、満足したときに終わる。魂のある人間としては、満足したときに終わるのだ。満足は、人間以外のすべての存在物に与えられた神の恩寵である。我々人間は、永遠を仰ぎ、この世の終わりまで進み続けなければならない。神が人間に与えた宇宙的使命は、苦悩し続けるその魂の存在にある。神を求め、永遠を求めて苦しみ続ける我々の魂こそが、宇宙を支える我々の「誠」なのだ。人間は、永遠の未完成体として存在している。その苦悩を生きることが、真の人間の「幸福」であるに違いない。

2022年8月20日

ジョン・スチュアート・ミル(1806-1873) イギリスの政治哲学者、経済思想家。政治哲学においては自由主義・リバタリアニズムのみならず社会民主主義の思潮にも多大な影響を与える。帰納法を大成、ベンサムの功利主義を修正。著作に『論理学体系』、『経済学原理』等。

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